基礎知識

アジャイル開発とアジャイルマーケティングの違い

この記事の要約

特に押さえておきたい点は「完成(Done)の定義」と「ユーザー」という用語の使われ方。アジャイル開発の手法を単純にコピーするだけではカバーできない点があることに注意。

アジャイル開発から生まれたアジャイルマーケティング

「アジャイル」という概念が生まれたソフトウェア開発の流れがアジャイルマーケティングに受け継がれていることは、そもそもアジャイルマーケティングとは何かアジャイルマーケティングの定義とアジャイルマーケティング宣言の記事でご紹介した通りです。

開発チームとマーケティングチームの構成や仕事の進め方の違いを踏まえることで、「アジャイル開発」と「アジャイルマーケティング」の異なる点が見えてきます。

私がインストラクター認定を受けたAgile Marketing Italiaの創立者であり、ソフトウェア開発でアジャイルを利用してきたDeborah Ghisolfi氏は、アジャイルマーケティングとアジャイル開発の違いに関して、「完成(Done)の定義」と「顧客(カスタマー)の定義」が最も注意すべき点であると考えています。

アジャイル開発との6つの違い

ここではRomek Jansen氏のアジャイル開発とアジャイルマーケティングの根本的な6つの違いの記事(英語)で紹介されている点を併せてご紹介しながら、それぞれの違いについて見ていきましょう。

完成の定義

この点については、スクラムガイドの中でもこのように説明されています。

スクラムチームによってその意味は大きく異なるかもしれないが、作業の完了についてメンバーが共通の理解を持ち、透明性を確保しなければいけない。

この点に加えて、ソフトウェア開発のバックグラウンドを持つDeborah氏は「ソフトウェアでは”機能を出荷可能にする”という目に見えやすい成果物があるが、マーケティングの場合は何を成果物にすべきなのかが決めにくいため、結果として成果(Outcome)が出せたかどうかではなく、アウトプット(Output)が出来たかどうかを完成の定義にしてしまいがちなので注意が必要」としています。

成果とアウトプットの違いに関してはアジャイルマーケティングにおけるバックログの作り方をご覧ください。

ユーザー

ある製品またはサービスを「買う人(カスタマーまたはショッパー)」と「使う人(ユーザーまたはコンシューマー)」が同じかどうかを考えるのは、マーケティング経験が豊富な方にとっては当たり前のことでしょう。

ただし、近年のソフトウェアビジネスではユーザー数を増やすことでビジネス全体の価値を上げ(ネットワーク効果)、一部のユーザーが課金してくれれば良いとするフリーミアムと呼ばれるビジネスモデルが利用されることが多いため、「ユーザーと顧客(カスタマー)を分けて考える必要性がマーケティングほど高くない」という点に注意が必要です。

ICAgileのアジャイルマーケティング学習ロードマップ(英語)では「アジャイルマーケターは(アジャイル開発で使われることの多い)ユーザーストーリーのようなテクニックを学ぶ必要がある」としていますが、Agile Marketing Italiaでは違いを明確にするために、ユーザーストーリーではなく「カスタマーストーリー」と呼ぶようにしています。

チーム

ソフトウェア開発におけるウォーターフォールとアジャイルの違いは、下図の通り「何を固定し、何を流動的にするか」にあります。

画像:What’s A Workback Schedule? | Luke Angel

ウォーターフォールではスコープ(作成すべき成果物)を固定し、その開発に必要なリソースと時間を見積もった上でプロジェクトを開始します。そして、プロジェクトが予定通りに終わりそうにない場合は、リソースの追加投入や開発終了時期の延期などの対応を行います。

一方のアジャイルではリソース(チームメンバー)を基本的に固定し、時間も2〜4週間などで固定されたタイムボックス(イテレーション)を回すことで、イテレーションが進むごとにチームのベロシティ(達成できる作業量およびスピードの予測精度)を高めながら、変化を続けるスコープへの対応を流動的に行っていきます。

しかし、マーケティングチームは開発チームとは違って、イテレーションごとにメンバーが変わることや、各メンバーが複数のチームで仕事をしていることが珍しくありません。

この点をどのように乗り切るのか、それぞれの環境に合った方法をチーム全体で見つける必要があります。

ミーティング

複数のマーケティングチームに所属しているメンバーがそれぞれ毎日顔を合わせる時間を持つべきか、代理店がプロジェクトメンバーとして参加している場合に社内外のメンバーとのチームワークの醸成や情報共有をどのように行うべきか、といった点への解決策を「検証された学び」をもとにチーム全体で見つけていく必要があります。

コスト

アジャイルソフトウェア開発ではリソース(≒人件費)を固定しているため、必要なコストは大きく変動しません。しかし、マーケティングチームでは「広告予算」をどのように扱うのかを考える必要があります。

見積もり

アジャイルソフトウェア開発ではリソースとタイムボックスを固定することでベロシティが安定し、その結果として見積もりの精度を高めることができますが、マーケティングチームはメンバーが流動的かつ成果を定義することが難しいという点に注意が必要です。